アーユルヴェーダの用語・読みものを一語ずつ引けるオンライン辞典
食事・食養生

ラサ(6つの味)

Rasa / रस

Definition

アーユルヴェーダにおける味の分類で、甘・酸・塩・辛・苦・渋の6つ。温冷のヴィーリヤ、消化後の作用のヴィパーカと合わせて、食材の性質を見る基本の物差しとされる。

この項目のポイント

  • ラサは甘・酸・塩・辛・苦・渋の6つに味を分類するアーユルヴェーダの基本概念
  • それぞれの味がドーシャ(ヴァータ・ピッタ・カパ)を増やしたり鎮めたりするとされる
  • 食材は味(ラサ)だけでなく、温冷(ヴィーリヤ)と消化後の作用(ヴィパーカ)を合わせて判断される
  • 重い⇄軽いなど10組20の性質(グルヴァディ・グナ)は、同じ性質が増やし反対の性質が鎮めるという原則で使われる
  • どの物差しでも説明できない素材固有の働きは、プラバーヴァ(特殊作用)と呼ばれる
  • 6つの味をすべて一食に取り入れることが、満足感と偏りのない食事につながると考えられてきた

食べたのに満たされない方へ

お腹はいっぱいなのに、なぜか甘いものに手が伸びる。

同じものばかり食べていると、食事が味気なく感じる。

そんな経験があるなら、その感覚には理由があるのかもしれません。

アーユルヴェーダでは、満足感には量だけでなく、味の揃い方が関わると考えてきました。

味が偏っていると、特定の味への欲求や食べすぎが起きやすくなる、という見方です。

その物差しになるのが、ラサ(6つの味)です。

ラサ(6つの味)とは

ラサ(Rasa)は、アーユルヴェーダにおける味の分類で、甘味・酸味・塩味・辛味・苦味・渋味の6つを指します。

サンスクリット語のラサは、味のほか、エッセンスや体液など複数の意味をもつ言葉です。

食養生の文脈では、この六味の分類が基本の物差しになります。

渋味(お茶や未熟な柿のような、口がきゅっと締まる感覚)を独立した味として数えるのが特徴です。

味とドーシャの関係

アーユルヴェーダでは、6つの味はそれぞれ特定のドーシャを増やしたり鎮めたりすると考えられてきました。

伝統的な整理では、おおよそ次のように説明されます。

6つの味は、ドーシャごとに働きが変わる

6つの味が3つのドーシャを鎮めるか増やすかの一覧
味ヴァータピッタカパ
甘鎮める鎮める増やす
酸鎮める増やす増やす
塩鎮める増やす増やす
辛増やす増やす鎮める
苦増やす鎮める鎮める
渋増やす鎮める鎮める

どの味にも良し悪しはなく、体質・季節・そのときの状態に合わせて配分を選ぶ

6つの味とドーシャの関係。鎮めるか増やすかは味ごとに異なる
  • 甘・酸・塩はヴァータを鎮め、カパを増やしやすい
  • 苦・辛・渋はカパを鎮め、ヴァータを増やしやすい
  • 甘・苦・渋はピッタを鎮め、酸・塩・辛はピッタを増やしやすい

どの味にも良し悪しはありません。

体質や季節、その時の状態に合わせて味の配分を選ぶことが、食養生の鍵とされます。

味・温冷・消化後の作用

アーユルヴェーダの食材学では、食べものの性質を味だけで決めません。

口で感じる味(ラサ)、体を温めるか冷ますか(ヴィーリヤ)、消化されたあとに残す作用(ヴィパーカ)の3つを合わせて判断します。

物差し何を見るか分け方感じるタイミング
ラサ(味)舌で感じる味甘・酸・塩・辛・苦・渋の6つ食べたとき
ヴィーリヤ体を温めるか冷ますか温める・冷ます体に入ってから
ヴィパーカ消化後に残す作用甘・酸・辛の3つ消化が終わってから

味が同じでも、温冷や消化後の作用が違えば、体への働きも違うと考えられています。

この3つを順に重ねていくと、ひとつの食材の性格が立体的に見えてきます。

ヴィーリヤ(温める・冷ます性質)

ヴィーリヤ(Vīrya)は、食材やハーブが体を温めるか冷ますかという性質を指します。

ラサ(味)とは別に判断される要素です。

味と分けるのは、味から予想できない場合があるためです。

たとえばアムラは、酸味が強いのに冷ます性質を持つとされます。

反対にごま油は、甘味を持ちながら温める性質とされます。

なお、はちみつを甘味なのに温める例として紹介する解説も見かけますが、古典でははちみつを冷ます性質(シータ)としています。

はちみつが甘味の中で例外扱いされるのは温冷ではなく、乾かして削る性質を持ち、重さを増やしにくい点です。

加熱を避けるという原則も含めて、扱いははちみつ(マドゥ)の節にまとめています。

体質を整えるときは、味と温冷の両方を見て判断します。

熱がこもりやすいピッタには冷ますもの、冷えやすいヴァータには温めるもの、という具合です。

ヴィパーカ(消化後の作用)

ヴィパーカ(Vipāka)は、食べたものが消化されたあとに体へ残す作用を指します。

日本語では、消化後の味と訳されます。

甘味、酸味、辛味の3つに整理されます。

口で感じるラサ(味)とは一致しないことがあります。

たとえば、渋味や苦味を持つものの多くは、消化後には辛味の作用を残すとされます。

消化のあとに残る働きなので、アグニ(消化の火)や、体をつくる組織であるダートゥとの関わりの中で語られます。

グルヴァディ・グナ(10組20の性質)

お粥を食べると体がほっとして、揚げものが続くと胃がずしりと重くなる。

味の名前では説明しにくいこの違いを、アーユルヴェーダは手ざわりのような性質の言葉で捉えてきました。

それがグルヴァディ・グナ(Gurvādi Guṇa)です。

重い⇄軽い、冷たい⇄熱いのように、対になる10組・20種の性質を指します。

先頭の「グル(重い)」から始まる性質の一群、という意味の呼び名です。

対になる10組・20の性質

グルヴァディ・グナを構成する10組の対になる性質の一覧
対になる性質意味
グル ⇄ ラグ重い ⇄ 軽い
シータ ⇄ ウシュナ冷たい ⇄ 熱い
スニグダ ⇄ ルクシャ油性 ⇄ 乾性
マンダ ⇄ ティークシュナ鈍い・遅い ⇄ 鋭い・速い
スティラ ⇄ チャラ安定 ⇄ 動性
ムリドゥ ⇄ カティナ軟らかい ⇄ 硬い
ヴィシャダ ⇄ ピッチラさらり ⇄ ねばり
シュラクシュナ ⇄ カラ滑らか ⇄ ざらつく
スークシュマ ⇄ ストゥーラ微細 ⇄ 粗大
サンドラ ⇄ ドラヴァ濃厚 ⇄ 液状

古典(チャラカ・サンヒター)に由来する分類とされる

グルヴァディ・グナを構成する10組・20の性質

使い方の原則は一つです。

同じ性質のものはそのドーシャを増やし、反対の性質のものは鎮める、と考えられています。

ヴァータは軽い・冷たい・乾いた・粗い・動く性質を持つとされます。

そのため、冷たく乾いた軽い食べものはヴァータを増やしやすく、温かく油分と重みのある食べものは鎮めやすいとされます。

同じように、ピッタは熱い・鋭い性質、カパは重い・冷たい・油性・安定した性質を持つとされます。

ラサ・ヴィーリヤ・ヴィパーカが「味」「温冷」「消化後」という時間の流れに沿った物差しなら、グルヴァディ・グナは素材そのものの質感を見る物差しです。

ヴィーリヤの温める・冷ますも、もとはこの10組のうちの一組にあたります。

なお、当サイトで単に「グナ」と書くときは、心の性質であるサットヴァ・ラジャス・タマスのトリグナを指します。

グルヴァディ・グナは心ではなく物質の性質を表す、別の枠組みです。

プラバーヴァ(特殊作用)

味も、温冷も、消化後の作用も、性質もよく似ている。

それなのに、体に現れる働きがまるで違う素材がある。

この「説明のつかない差」に、アーユルヴェーダは名前を与えました。

それがプラバーヴァ(Prabhāva)です。

ラサ・ヴィーリヤ・ヴィパーカ、そしてグルヴァディ・グナでは説明しきれない、その素材固有の特殊な働きを指します。

古典でよく引かれる例が、チトラカとダンティーという2つの植物です。

チャラカ・サンヒターでは、どちらも辛味で、消化後も辛味、温める性質を持つと並べられています。

それでもダンティーだけが下す働きを示す、その差がプラバーヴァによるものだと説明されます。

物差しをすべて当てたうえで、最後に残る素材の個性。

プラバーヴァは、理屈で割り切れない部分を正直に認めるための言葉ともいえます。

物差しが重なる順番

ここまでの物差しを並べると、素材学(ドラヴィヤグナ)の組み立てが見えてきます。

物差し見るもの素材のどこを見るか
ラサ舌で感じる味入口
グルヴァディ・グナ重い・軽いなどの質感素材そのもの
ヴィーリヤ温める・冷ます体に入ってから
ヴィパーカ消化後に残る作用消化が終わってから
プラバーヴァほかで説明できない固有の働き最後に残る個性

素材ごとのこうした性質は、ニガントゥと呼ばれる薬物の辞典類にまとめられてきました。

とはいえ、日々の食事を選ぶ場面では、ラサとヴィーリヤの2つで足りることがほとんどです。

グルヴァディ・グナやプラバーヴァが細かく意識されるのは、主に専門的にハーブや薬用の素材を扱う場面です。

6つの味を一食に

アーユルヴェーダの食事の知恵としてよく知られるのが、6つの味をすべて一食に取り入れるという考え方です。

味が揃うことで食後の満足感が生まれ、特定の味への過度な欲求や食べすぎが起きにくくなるとされてきました。

インドの伝統的な定食(ターリー)は、この六味が自然に揃う構成の一例です。

大切なのは量ではなく、少しずつでも6つの味が食卓に揃うことです。

食事全体の考え方は、アーハーラの項目でも扱っています。

消化との関わり

味は舌で感じるだけでなく、消化の火(アグニ)がそれをどう受け止めるかまで含めて考えるのが、アーユルヴェーダの見方です。

同じ食材でも、調理法や食べ合わせ、食べる人の消化力によって働きが変わるとされます。

六味はあくまで出発点で、自分の体の声と合わせて使う物差しとされています。

日常の一手

いつもの食事に、足りない味をひとつだけ足してみる。

食後に何か足りないと感じたら、今日の食卓に揃っていた味を数えてみる。

冷えが気になる日は、味だけでなく温める素材かどうかも眺めてみる。

完璧に揃えなくても、意識するだけで食卓の見え方が変わる。

ラサは、そのための身近な物差しです。

本項目は伝統的な考え方の紹介であり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。

FAQよくある質問

ラサ(6つの味)とは何ですか?

アーユルヴェーダで用いられる味の分類で、甘味・酸味・塩味・辛味・苦味・渋味の6つを指します。渋味を独立した味として数えるのが特徴で、食事や生薬の性質を理解する基本の物差しとされてきました。

6つの味とドーシャはどう関係しますか?

それぞれの味には、特定のドーシャを増やす、あるいは鎮める働きがあると伝統的に考えられています。たとえば甘・酸・塩はヴァータを鎮め、苦・辛・渋はカパを鎮めるとされ、体質や季節に合わせて味のバランスを選ぶ手がかりになります。

ヴィーリヤとは何ですか?なぜ味と分けて考えるのですか?

食材やハーブが体を温めるか冷ますかという性質です。味から予想できない場合があるため、味とは別に判断されます。アムラは酸味が強いのに冷ます性質を持つとされ、ごま油は甘味を持ちながら温める性質とされます。

ヴィパーカとは何ですか?

食べたものが消化されたあとに体へ残す作用で、消化後の味とも訳されます。甘味・酸味・辛味の3つに整理され、渋味や苦味を持つものの多くは、消化後には辛味の作用を残すとされます。

6つの味はどう実践に活かせますか?

一食の中に6つの味をすべて取り入れることが、食後の満足感と偏りの少ない食事につながるとされてきました。すべてを大量に摂るのではなく、少しずつでも6つの味が揃うよう意識するのが伝統的な工夫です。