アーユルヴェーダの知識は、はじめ口伝で受け継がれ、のちに文献としてまとめられました。

現在アーユルヴェーダとして語られる内容の多くは、三大古典と呼ばれる文献群にさかのぼることができます。

この記事では、その3つの違いと読みどころを整理します。

用語の由来をたどるとき、あるいは何かを引用するときの拠りどころになります。

三大古典の位置づけ

文献成立の目安中心テーマ特徴
チャラカ・サンヒター紀元前後内科・理論・養生思想と原則が厚い。哲学的な議論も多い
スシュルタ・サンヒター紀元前後外科手術器具と処置の記述が具体的
アシュターンガ・フリダヤ7世紀ごろ統合・実用前2書を整理した実用的な要約

サンヒターは集成という意味です。

個人の著作ではなく、学派の中で長い時間をかけて編まれたものと考えられています。

チャラカ・サンヒター:思想が書かれている

内科を中心とした文献ですが、読みどころは治療法ではなく考え方の部分です。

有名なのが、医学の目的についての記述です。

病を治すことと並んで、健康な人の健康を守ることが挙げられている。

予防と養生を治療と同格、あるいはそれ以上に置くという姿勢が、ここで明示されています。

アーユルヴェーダが生活の知恵として広まった背景には、この位置づけがあります。

チャラカが示した医学の目的
医学の目的
治す病を治すこと
守る健康な人の健康を守ること

予防と養生を、治療と同格かそれ以上に置いた

ほかにも次のような主題が扱われます。

スシュルタ・サンヒター:外科の記録

こちらは具体性が際立ちます。

手術器具の分類、切開や縫合の方法、包帯の巻き方といった記述が並び、鼻の再建術の記述は形成外科の源流としてしばしば言及されます。

体表の急所とされるマルマの記述が詳しいのも、この文献の特徴です。

外科的な処置において、傷つけてはならない箇所を知る必要があったためだと説明されます。

スシュルタに書かれている具体的な中身
スシュルタ・サンヒター
器具手術器具の分類
処置切開、縫合、包帯の巻き方
マルマ傷つけてはならない急所の記述

鼻の再建術は形成外科の源流としてしばしば言及される

現代のアーユルヴェーダは内科・養生の側面が中心ですが、外科の伝統も同じ体系の中にあったことは押さえておく価値があります。

アシュターンガ・フリダヤ:実用の書

7世紀ごろ、ヴァーグバタによって編まれたとされる文献です。

前の2書の内容を整理し、詩の形式でまとめられています。

2つの古典から実用の書へ
1. チャラカ内科・理論・養生。思想と原則が厚い
2. スシュルタ外科。器具と処置の記述が具体的
3. フリダヤ7世紀ごろ、前2書を詩の形式で整理

八支(アシュターンガ)は、アーユルヴェーダが扱う8つの分野を指します。

  1. 内科
  2. 外科
  3. 耳鼻咽喉・眼科
  4. 小児科
  5. 毒物学
  6. 精神・霊的な領域
  7. 強壮(ラサーヤナ)
  8. 生殖・強精

現代のアーユルヴェーダ教育では、この書が教科書として使われることが多いとされます。

簡潔で、体系が見渡しやすいためです。

古典を引用するときの注意

読み物や商品説明で古典が引かれる場面は多いのですが、扱いには慎重さが必要です。

  • 成立年代に幅がある:写本や版によって内容が異なることがある
  • 重訳が多い:サンスクリット語から英語、英語から日本語という経路で意味がずれることがある
  • 当時の前提がある:社会制度や環境を前提とした記述が含まれる
  • 効果効能の断定に使わない:古典にこう書かれている、という記述は、現代の効果の証明にはならない

このサイトでも、古典の記述はそう考えられてきたという伝統の紹介として扱い、効果の根拠としては用いていません。

古典の記述の扱い方
紹介そう考えられてきたという伝統として扱う
根拠現代の効果の証明には使わない

用語をたどるという読み方

古典を通読するのは簡単ではありませんが、気になる用語の由来をたどるという読み方なら始めやすくなります。

オージャス、プラーナ、グナといった言葉が、どの文献のどの文脈で登場するのかを追っていくと、体系の輪郭が見えてきます。

通読しなくても古典に近づける順番
1. 用語を選ぶオージャス、プラーナ、グナなど気になる言葉
2. 文脈を追うどの文献のどの文脈で登場するか
3. 輪郭が見える体系の全体像がつながってくる

全体像を先に押さえたい場合はアーユルヴェーダとはから読むと、古典の位置づけが分かりやすくなります。

本記事はアーユルヴェーダの古典文献を知識として紹介するものであり、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。