アーユルヴェーダの用語・読みものを一語ずつ引けるオンライン辞典
古典・歴史

八部門(アシュターンガ・アーユルヴェーダ)

Aṣṭāṅga Āyurveda / अष्टाङ्ग आयुर्वेद

Definition

アーユルヴェーダが扱う8つの分野のこと。内科から強壮までを含む。

この項目のポイント

  • 八部門はアーユルヴェーダが扱う領域を8つに分けたもので、アシュターンガ・フリダヤの書名もこれに由来する
  • 内科・外科・鎖骨より上の科・小児科・毒物学・心の領域・強壮・生殖の8つからなる
  • 外科のシャーリヤはスシュルタ・サンヒターを、小児科のカウマーラブリティヤはカシュヤパ・サンヒターを基礎資料とする
  • 妊娠期の養生ガルビニーパリチャリヤは、母子をひとつながりに見るカウマーラブリティヤの前段として扱われる
  • 現代の日本で紹介されるのは主に内科と養生の領域で、専門的な処置は古典の分類として語られることが多い

八部門とは

アーユルヴェーダと聞くと、オイルマッサージや食事の話を思い浮かべる人が多いはずです。

その印象は間違っていませんが、体系の全体はもっと広く作られています。

八部門(アシュターンガ・アーユルヴェーダ)は、アーユルヴェーダが扱う領域を8つに分けたものです。

アシュタは8、アンガは肢体や部分を意味します。

7世紀ごろにまとめられたとされるアシュターンガ・フリダヤの書名も、この8つに由来します。

8つの分野

分野現代の言い方に近いもの
カーヤチキットサー内科
シャーリヤ外科
シャーラーキヤ耳鼻咽喉・眼科(鎖骨より上)
カウマーラブリティヤ小児科(産科的な養生を含む)
アガダタントラ毒物学
ブータヴィディヤー心や目に見えない原因を扱う領域
ラサーヤナ強壮・若返り
ヴァージーカラナ生殖・強精

現代の対応はあくまで目安です。

理論も道具も現代医学とは異なるので、同じものではありません。

内科カーヤチキットサー

カーヤは体、チキットサーは手当てを意味します。

消化の火アグニを中心に、全身の不調を食事・生活・ハーブで整えていく分野です。

チャラカ・サンヒターがこの分野の根本経典とされ、日本で紹介されるアーユルヴェーダの多くはここに連なります。

シャーリヤ(外科)

シャーリヤは、外傷の手当てや異物の除去など、外科的な処置を扱う分野です。

もともと矢や棘のような体に刺さった異物を指す語で、そこから異物を取り除く技術、つまり外科そのものを指すようになったと伝わります。

基礎資料はスシュルタ・サンヒターです。

著者として伝わるスシュルタは外科の祖とされ、同書には切開や縫合の手技、手術器具の記述が含まれます。

同じ書にはマルマ(深く傷つけると命に関わるとされる急所)の知識もまとめられています。

切る技術と、切ってはいけない場所の知識が一冊に並んでいるところに、この分野の性格がよく表れています。

シャーラーキヤ(鎖骨より上の科)

シャーラーキヤは、鎖骨より上、つまり目・耳・鼻・喉・口を扱う分野です。

細い器具を意味するシャラーカに由来するとされます。

目のふちに塗るアンジャナや、目にギーを満たすネートラタルパナは、この分野の流れをくむケアとして語られます。

鼻からオイルを入れるナスヤも、頭部を扱う手当てとして近い位置にあります。

目はアーローチャカ・ピッタの座とされ、熱と乾きの影響を受けやすいと考えられてきました。

スシュルタ・サンヒターにもこの分野にあたる記述が含まれていたと伝わり、外科と目や耳の処置がひとつづきの技術として扱われていたことがうかがえます。

カウマーラブリティヤ(小児科)

カウマーラブリティヤは、子どもの養生と病気を扱う分野です。

子どもを意味するクマーラと、養うことを意味するブリティヤからなる語とされます。

基礎資料はカシュヤパ・サンヒターです。

著者として伝わるカシュヤパは、内科のアートレーヤ、外科のスシュルタと並ぶ、小児科・婦人科の系譜の祖とされます。

この古典は伝存する部分が少なく断片的ですが、子どもの養生を専門に扱った文献として基礎資料とされ続けています。

この分野が特徴的なのは、子どもだけを切り離して見ないことです。

妊娠中の母体、出産、産後の母子、そして子ども自身の成長までを、ひとつながりのものとして扱ってきました。

ガルビニーパリチャリヤ(妊娠期の養生)

ガルビニーパリチャリヤは、妊娠期の養生を指します。

ガルビニーは妊婦、パリチャリヤは世話や過ごし方を意味します。

古典には、妊娠の月ごとに適した食事と過ごし方が記されています。

中心に置かれるのは、ヴァータを乱さないことです。

規則正しい生活、消化しやすい温かい食事、穏やかな気持ちで過ごすことが勧められ、強い刺激や過度な負荷は避けるべきとされてきました。

母体の養生がそのまま子どもの育ちにつながるという見方が、カウマーラブリティヤの前段としてこの養生を位置づける理由です。

月経期の過ごし方を扱うラジャスヴァラー・パリチャリヤと並べて語られることもあります。

なお、この時期は施術やハーブの使い方に制限があるとされます。

取り入れる前に、必ず医師などの専門家に相談してください。

残る4つの分野

アガダタントラは、蛇や虫、植物や鉱物の毒を扱う分野です。

ブータヴィディヤーは、心の乱れや、原因が目に見えない不調を扱う領域とされます。

ラサーヤナは、衰えを遅らせ、活力を保つための強壮の分野です。

ヴァージーカラナは、生殖の力と子孫を得ることを扱います。

いずれも独立した古典を持つというより、大三部書の中の章として扱われてきました。

現代での位置づけ

現代の日本で紹介されるのは、主に内科と養生の領域です。

外科や小児科、目や耳の専門的な処置は、古典の分類として語られることがほとんどです。

それでもこの一覧を見ると、アーユルヴェーダが体の一部ではなく、生まれる前から老いるまでの人の一生を丸ごと扱おうとした医学だったことが分かります。

本項目は歴史的・伝統的な知識の紹介であり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。

FAQよくある質問

8つの分野にはそれぞれ専門の古典がありますか?

すべてにあるわけではありません。内科はチャラカ・サンヒター、外科はスシュルタ・サンヒター、小児科はカシュヤパ・サンヒターが基礎資料とされますが、ほかの分野はこれらの古典やアシュターンガ・フリダヤの中の章として扱われるのが一般的です。

日本のサロンで受けられるのはどの分野ですか?

オイルマッサージや食養生など、主に内科と養生の領域に近いものです。外科や小児科、目や耳の専門的な処置は、古典の分類として紹介されるにとどまります。

妊娠中にアーユルヴェーダの施術やハーブを試してもよいですか?

自己判断では取り入れないでください。古典でも妊娠期は施術やハーブの使い方に制限がある時期とされています。必ず産婦人科医などの専門家に相談したうえで判断してください。