アーユルヴェーダの用語・読みものを一語ずつ引けるオンライン辞典
理論・概念

アシュタヴィダ・パリークシャー(八種診察)

Aṣṭavidha Parīkṣā / अष्टविध परीक्षा

Definition

脈・尿・便・舌・声・皮膚・眼・体格という8つの徴候から、ドーシャのかたよりを読み取る伝統的な診察法。

この項目のポイント

  • 脈・尿・便・舌・声・皮膚・眼・体格の8項目を順に観察する診察の枠組み
  • 脈診(ナーディーパリークシャー)はこの8項目のうちの1つにすぎない
  • 舌と便はアーマ(未消化物)とアグニ(消化力)の状態を映すものとして特に重視される
  • 8つの徴候のほかに、土地(デーシャ)・時(カーラ)・慣れ(サートミヤ)・体力(バラ)も合わせて見るとされる
  • 同じ徴候でも、住む土地や季節、年齢、慣れ、体力によって手当ての方向や強さが変わると考えられている

アシュタヴィダ・パリークシャーとは

アシュタヴィダ・パリークシャーは、体が外に出している8つの徴候から状態を読み取る伝統的な診察法です。

アシュタは8、ヴィダは種類、パリークシャーは診ることを意味します。

三大古典より後の時代に整理された枠組みとして伝わっています。

朝の舌がいつもより白い、声がかすれる、肌がかさつく。

鏡を見て今日はなんだか違うと感じるとき、人はすでに体の徴候を読んでいます。

八種診察は、その何となくの観察を8つの窓に分けて、順に確かめていく方法だといえます。

8つの項目

項目見るもの読み取りの手がかり
脈(ナーディー)指の下の脈の質ドーシャのかたより。詳しくはナーディーパリークシャー
尿(ムートラ)色、量、におい体の熱や水分の傾向
便(マラ)形、沈むか浮くか、においアグニとアーマの状態
舌(ジフヴァー)苔の厚さと色、乾き、色味消化の状態とドーシャ
声(シャブダ)張り、かすれ、話す速さ乾きや重さの傾向
皮膚(スパルシャ)乾き、脂っぽさ、温度、感触ヴァータ・ピッタ・カパのどれが強いか
眼(ドリク)白目の色、うるおい、輝き熱や乾きの傾向
体格(アークリティ)肉づき、骨格、全体の印象生まれ持った体質

たとえば皮膚なら、乾いて冷たければヴァータ、温かく赤みがあればピッタ、しっとりして冷たく厚みがあればカパの傾向として読まれます。

どの項目も、3つのドーシャの性質(乾き・熱・重さなど)が体の表面にどう出ているかを見る、という同じ考え方でつながっています。

脈診は8つのうちの1つ

脈診はアーユルヴェーダの象徴のように扱われがちですが、この枠組みの中では8項目のうちの1つに過ぎません。

脈は緊張、直前の食事、気温、睡眠不足でも変わりやすいものです。

そのため伝統的な進め方でも脈だけで結論を出さず、舌や便、声など他の徴候と重ねて読むとされています。

舌と便が重視される理由

舌の苔と便の状態は、アーマ(未消化物)とアグニ(消化力)の状態を映すものとして特に重視されてきました。

舌磨きの習慣が観察とセットで語られるのはそのためです。

読み取るのは病名ではなく、生まれ持った体質であるプラクリティと、今かたよっているヴィクリティの差とされています。

八種診察のほかに見るもの

体の徴候がまったく同じでも、雪国に住む70代と、蒸し暑い土地に住む20代とでは、同じ手当てにはなりません。

アーユルヴェーダの古典は、徴候そのものと同じくらい、その人を取り巻く条件を大切にしてきました。

チャラカ・サンヒターには、体質や病態のほか、慣れ、心の強さ、食べる力、運動する力、年齢などを含む10項目で人を見る枠組みも示されています。

ここでは、その中でもよく登場する4つの視点、土地・時・慣れ・体力を取り上げます。

デーシャ(土地)

デーシャ(Deśa)は、土地や場所を指す言葉です。

古典では、乾いた土地(ジャーンガラ)、湿った土地(アーヌーパ)、その中間(サーダーラナ)という分類が示されています。

湿度の高い土地ではカパが、乾いた土地ではヴァータが増えやすいとされます。

梅雨どきに体が重くなる、乾いた冬に肌がつっぱる。

住む場所や天気で体の調子が変わるという感覚は、デーシャという言葉で古くから扱われてきたものです。

チャラカ・サンヒターでは、デーシャは土地だけでなく、診る相手の体そのものを指す言葉としても使われています。

どこで暮らしているかと、その人の体がどんな状態かを、同じ言葉の下で並べて見ていたことになります。

インドの気候を前提とした養生をそのまま持ち込まず、住んでいる土地の性質に置き換えて考える。

日本でアーユルヴェーダを取り入れるときの基本姿勢は、この概念に支えられています。

カーラ(時)

カーラ(Kāla)は時間を指します。

アーユルヴェーダでは、3つの時間軸で体の状態を捉えます。

時間軸区切り扱う養生
1日朝・昼・夕方から夜ディナチャリヤ
季節6つの季節リトゥチャリヤ
一生幼少期・壮年期・老年期年齢に応じた養生

1日の中では、朝はカパ、日中はピッタ、夕方はヴァータが強まりやすいとされます。

一生の中では、幼少期はカパ、青年期から壮年期はピッタ、老年期はヴァータが優位になりやすいとされます。

子どもの頃は鼻水をよく出していたのに、年を重ねて肌や関節の乾きが気になってきた。

そんな移り変わりも、この時間軸で読むと筋が通って見えてきます。

同じ人でも、季節や年齢によって必要な養生が変わる。

物事を始める時刻を選ぶムフールタの考え方も、時を重んじるこの流れの中にあります。

サートミヤ(慣れ)

サートミヤ(Sātmya)は、習慣として続けてきたことで体になじんだものを指します。

一般論より、その人の慣れを先に見る考え方です。

理論のうえでは合わないとされる食べ物でも、その土地で長く食べられてきたものは、その人にとって適応していると考えます。

日本で育った人にとっての米や味噌汁が、まさにそれにあたります。

逆に、体によいとされるものでも、慣れていないものを急に大量に取り入れることは勧められません。

古典では、合わない習慣も少しずつ手放し、よい習慣も少しずつ取り入れるという段階的なやり方が説かれています。

また、6つの味(ラサ)すべてに慣れている状態がもっとも望ましく、1つの味だけに偏った慣れは弱い状態とされます。

組み合わせの悪い食べ合わせを指すヴィルッダ・アーハーラも、長く慣れた人には害が出にくいことがあると古典は述べており、慣れが判断を左右する例になっています。

バラ(体力)

バラ(Bala)は力を意味し、体力や抵抗力、現代でいう免疫力に近い概念として扱われます。

オージャスと深く結びついており、オージャスが充実しているとバラも保たれるとされます。

伝統的には、次の3つに分けられます。

  • サハジャ:生まれ持った力
  • カーラジャ:季節や年齢によって変わる力
  • ユクティクリタ:食事や生活によって育てる力

このうち日々の養生で働きかけられるのは3つ目です。

消化力(アグニ)を保ち、ラサーヤナの考え方に沿って生活を整えることが、バラを守る道筋とされてきました。

診察の場では、バラは手当ての強さを決める目安にもなります。

体力のある人には強めの浄化法も検討されますが、体力の落ちている人には、まず穏やかに整える方法が選ばれると考えられています。

同じ不調でも、その人がどれだけ受け止められるかで方法を変える、という発想です。

見立ては専門家と一緒に

8つの徴候も、土地・時・慣れ・体力も、自分の毎日を振り返るきっかけとしては身近なものです。

一方で、それらを重ね合わせて見立てを組むのは、訓練を積んだ専門家の仕事とされています。

自分で気づいたことはメモにして、相談の場に持っていくくらいがちょうどよい距離です。

本項目は伝統的な考え方の紹介であり、医学的な診断・治療を目的とするものではありません。体調に不安があるときは医療機関にご相談ください。

FAQよくある質問

八種診察は病名を診断するものですか?

病名の特定を目的としたものではなく、ドーシャのかたよりや消化力の状態を読み、生活と食事の方向を決めるための伝統的な枠組みとされます。現代医学的な診断とは目的が異なります。

8つのうちどれが一番重視されますか?

1項目だけで判断することは伝統的にも避けられ、複数の徴候が同じ方向を指すかどうかを重ねて読むとされています。中でも舌と便はアーマとアグニの状態を映すものとして重視されてきました。

自分でできる項目はありますか?

舌・便・皮膚・声の状態は道具なしで毎日確認できます。脈診や体格の読み分けは訓練を要するとされ、専門家に見てもらう項目として位置づけられます。

体の徴候のほかに何を聞かれるのですか?

住んでいる土地、季節や年齢、長く続けてきた食習慣、体力の程度などです。アーユルヴェーダでは、同じ徴候でもこうした条件によって養生の組み立てが変わると考えられてきました。